七色の空
チャプター22
「メッセージ」

時折吹く夏の生暖かい夜の風が、福生の気持ちを少し落ち着かせた。福生は公園の滑り台の上にいる。頭上の星を見上げ、丘の上の公園から、林檎にメッセージを送ろうとしていた。目下にひろがる街の風景。点灯する家明かりは福生に送られるメッセージのようだった。
林檎は福生の部屋でユブネにつかっている。体を清めるように何時間もつかり、林檎の掌はよぼよぼになった。林檎は自分のことを汚らわしいと思ってはいない。健が許せなかった訳でもない。けれど、目を合わせなかった福生の顔が、今まで他人から与えられたことのない眼差しをしていたから、林檎は少し不安になった。「あなたの為にできること」林檎は、自分が福生にふさわしくないんじゃないかと、不安になるのであった。


チャプター23
「いつものように」

林檎が福生の部屋に顔をださなくなって一週間が過ぎようとしている。福生はいままでもそうだったように、また孤独に作業をするだけだ。映画の撮影は丁度折り返し地点にさしかかっていた。福生にはさしあたって必要に迫られた仕事などなかったが、別の脚本を執筆中である。その脚本は生きている間に完成しない可能性もある。福生にとって、そんなことは関係ない。死ぬ間際、何も劇的なストーリーなど期待はしていない、心を乱せば自分が哀れなだけだ。


チャプター24
「もぉ泣かないで」

その日は外に出ないのがもったいなくなるような、蒼くつきぬけた晴天の日。林檎は自宅で部屋の整理をしている。部屋にはたくさんの段ボールが積み重なり、引っ越したばかりのような部屋の様子は林檎の心を反映しているようでもある。くわえ煙草に目を細めながら、淡々と箱に思い出を詰め込んでゆく。吹く込む風が、肩ぐらいまである林檎の髪をなびかせる。
夏の陽射しが南向きのリビングに陽々と射しこむ。クーラーはついていない。大きな窓を目一杯開いて、部屋が呼吸をしている。林檎はベランダに出ると、七階のその場所から見渡せる景色に、少し面倒臭そうな顔をする。煙草の煙が、干してある洗濯物にまとわりつき、林檎の下着が陽射しを受け、淫美に輝いている。
林檎は出ていこうとしているのだろうか?何も良いことがなかったこの街を…
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