七色の空
「もぉ泣かないでつづき5」

林檎は声のした方へ振り返る。そこには福生が立っている。二人の間には、かけ寄れば一瞬でうまってしまう程の距離しかない。二人はお互いその距離を縮められないまま…
福生「どしたの?なんか尋常じゃない顔付きしてるから、しばらく見入っちゃったよ(笑)」
林檎「…」
福生「…」福生は言葉を探している。
福生「おれ切符の値段間違っちゃってさ、精算してたら物凄い形相で林檎が駆け込んでくるし(笑)もぉ林檎どんだけ電車賃いかほどみたいな」
林檎「○×△」
福生「え?なに?」
林檎は福生に聞こえない声で、いじける様に、
林檎「見てたんなら声ぐらいかけてよ」
福生「何、きこえない?」 林檎のいじけて「く」の字になった可愛い唇が福生に声は届かないが「こえぐらいかけてよ」と、もう一度つぶやく。
松葉杖の福生が林檎に歩み寄る。福生が目の前までくると、林檎は顔をふせてしまう。
 二人はお互いの鼓動が聞こえている。それはハートの鼓動。隠そうにも隠せない、いま目の前にいる相手を、愛しているとハートが叫ぶ。
 うつ向いた林檎の足下に、滴のあとが1つできた。続いてひとつ、またひとつ。
林檎が福生の胸に体をあずける。福生は松葉杖を持ったまま、少し遠慮するように、林檎のか弱い体を、そっと大事に抱き締める。福生「もぉ泣かないで」
林檎は声を押し殺し、しゃくり上げるように泣いた。悲しみを押し殺すため、しゃくり上げるように…
ハートの位置を知ってるかい?それは大事な人が教えてくれる。
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