七色の空
チャプター31
「金太郎飴」

林檎は暑い季節に生まれた。林檎の母親は、出産の直前までパチンコをしているような、かなりアナーキーな御人である。パチンコ屋でイベント台を確保したその日、快調に出玉を増やしていたお昼過ぎ、店内で陣痛がピークに達し、店内で出産した。普通、朝から妊婦がオープン待ちの列に並んでいれば、店員が御遠慮願うべきだ。それ以前に、お腹の赤ちゃんにとって劣悪極まりないホールなどに出入りすること自体、母親として間違っている。
林檎の母親は確かにその頃、赤ん坊を軽視していた。しかし、人は変われるのだ。自分の腹を痛めて変わり、娘に自分を投影して変わる。夫を失っても娘がいる。娘は出来ることなら母親より長生きすべきだ。
娘は美しく成長し、野望を抱き上京し、行き着いた先がAV女優。
人の一生で大事なことは、人間らしく生きることではなく、自分らしく生きることである。誰もが皆、本当は自分が何をしたいか分かっている。それが出来ないのは、明日の自分が今日の自分を他人事にしてしまうから。林檎の持論である。
福生の母親は、また昨日の自分を捨てさって、今日も日本のどこかで生きている。
林檎の実家に二人が帰省した時、二人を見送る際に林檎の母親が言った、「またいつでも帰っておいで」 生まれて死ぬまで、人の人生とは金太郎飴のようにつながり、どこを切っても自分の顔が現れ、同じ味がしなければならない。福生の信念である。
福生の母親は、金太郎飴を知らなかった…ただ、それだけの事である。
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