七色の空
「ヒバリのこころ」
〜つづき5

福生は真性のエムである。故に男達にボコボコにされてそれ程悪い気はしない。しかし、柔らかい肉体は、主人の心とは無関係に、殴打されたことにより甘美なまでに崩れ、腫れあがっている。
痛みは快楽。激痛は快感。今まで修復不可能な程、心に傷を負ってきた福生である。林檎も以下同分。
福生は痛みて云う快楽の中で、はるかノスタルジーに浸っていた。
それは、幼い頃の甘酸っぱい恋の想い出。想い出ポロぽろ。綺麗なロングヘアーの彼女が通り過ぎると、芳しい香りが漂った。その女性の名は「まゆら」。
傍らで愛する林檎が見守っているにも関わらず、福生の記憶は遥かノスタルジーなのである。
恋を知らずに脚本は描けない。いや、描く意味がない。福生が口にはしない、心の奥にしまった素直な気持ちだ。
もしかすると、福生は結局、愛にしか興味のない人だったのかもしれない。
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