七色の空
チャプター80
「無器用な兎」

まゆらと福生の別れ。それは一方的に福生主観の捉えかたで、まゆらからすれば、別れだと感じる要素もないまま、福生の生活から姿を消した。
まゆらがいなくなった日。その日はよく晴れた冬の空が、突抜るように鮮やかなブルーに染まり、真っ白な雲を浮かべていた。
福生が想いを寄せるようになってから早2年が経とうとしていた。福生の寿命からすれば2年は貴重な時間だ。その2年間で、福生は脚本を勉強するための資金を貯え、まゆらへの恋を続けた。
その頃、まゆらは独身だったが、母親を早くに亡くした「みよ」という園児の父親と少し男女仲になりかけており、後に結婚することになる。そのことを福生は全く知らないでいた。
福生とまゆらの別れは、まゆらの結婚が決まるずっと前の出来事だ。
ある日、ウサギ小屋のウサギが二匹変死の状態で発見される。変死したウサギが発見された前の日、小屋の掃除係は福生だった。そのことで、福生が疑われることはなかったが、死んだウサギの一匹がまゆらの兎だったことが福生の恋心を空回りさせてしまう。しかも、その兎は数日前にまゆらが福生にプレゼントしていたのだ。今まで誰からも誕生日プレゼントなど貰ったことのない福生へ、まゆらは「すごく大事にしてくれているから、もしよかったら福生君の誕生日にプレゼントしたい」と言って、福生に兎の「なな」をプレゼントした。「なな」は♀兎で、よく福生になついていた。福生は時折、保育園に許可を得て、「なな」を散歩に連れていった。ウサギの散歩をしている人など見たことがないが、人と違ったことをしている自分にも、どこか満足していた福生だった。
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