Which one?
☆
年末。年の瀬。師走。
その言葉たちに意味もなく溜息が漏れるのは、この広い世界で私だけじゃないはず。
仕事にも追われる、忙しない毎日。
さらには日一日と寒くなって、私にはつらい季節でしかない。
「おはようございまー……す」
「佐々木さん、今日も綺麗ッスねー」
「えー。全然そんなことないよー。ほら、肌もカサつく季節だしー」
オフィスに入るなり、陽気な〝彼〟がいつものように調子のいい笑顔を振りまいている。まんざらでもない様子の同僚を一瞥して、『またか』と内心辟易する。
私はそれをスルーして自席に着くと、目敏く察したその彼が私へと近づいてきた。
「おはようございまっす! 美里さん」
「……おはよう。ていうか、『橘さん』でしょ? 下の名前で呼ばないでよ。一応、私はキミの先輩なんですけど」
ドサッとわざと威嚇するようにカバンをデスクに置いても、後輩である紺野は全く動じない。むしろ、持ち前の陽気さ全開で私に微笑みかけてくる。
「大丈夫ですよ。誰も気づいてませんから」
確かに。『美里さん』の部分だけ、私の耳元で囁くから、他の人には聞こえてないとは思う。
でも、それもまた問題だってことを示唆しているのに。
きっと、紺野はそれすらもわかっていて、狡い微笑で上手く流してる。
「美里さん。外、寒かったでしょう? ボクが今、熱いコーヒー淹れますよ」
そうやって、人の気持ちを弄ぶように妖しく目を細めて。
……それ、私だけじゃないくせに。
それでも、今まで紺野の優しさに救われることは実際多くて。
女慣れしてるからこそなのか、その広い心と柔らかい空気で励まされたりすると、わかっていてもどこか期待してしまったりするんだ。
〝私だけかもしれない〟って。
でも、それはすぐに違うのだと思い知らされることの繰り返し。
次の瞬間には、すぐ隣で別の女の子に同じ顔してうまいこと口にしてるんだから。
だから私は、なるべく紺野と距離を取って、うまく先輩後輩としての付き合いをしていこうと思っていた。
それなのに、いつもいつでも、紺野という年下の男は私を翻弄してくるのだ。
その言葉たちに意味もなく溜息が漏れるのは、この広い世界で私だけじゃないはず。
仕事にも追われる、忙しない毎日。
さらには日一日と寒くなって、私にはつらい季節でしかない。
「おはようございまー……す」
「佐々木さん、今日も綺麗ッスねー」
「えー。全然そんなことないよー。ほら、肌もカサつく季節だしー」
オフィスに入るなり、陽気な〝彼〟がいつものように調子のいい笑顔を振りまいている。まんざらでもない様子の同僚を一瞥して、『またか』と内心辟易する。
私はそれをスルーして自席に着くと、目敏く察したその彼が私へと近づいてきた。
「おはようございまっす! 美里さん」
「……おはよう。ていうか、『橘さん』でしょ? 下の名前で呼ばないでよ。一応、私はキミの先輩なんですけど」
ドサッとわざと威嚇するようにカバンをデスクに置いても、後輩である紺野は全く動じない。むしろ、持ち前の陽気さ全開で私に微笑みかけてくる。
「大丈夫ですよ。誰も気づいてませんから」
確かに。『美里さん』の部分だけ、私の耳元で囁くから、他の人には聞こえてないとは思う。
でも、それもまた問題だってことを示唆しているのに。
きっと、紺野はそれすらもわかっていて、狡い微笑で上手く流してる。
「美里さん。外、寒かったでしょう? ボクが今、熱いコーヒー淹れますよ」
そうやって、人の気持ちを弄ぶように妖しく目を細めて。
……それ、私だけじゃないくせに。
それでも、今まで紺野の優しさに救われることは実際多くて。
女慣れしてるからこそなのか、その広い心と柔らかい空気で励まされたりすると、わかっていてもどこか期待してしまったりするんだ。
〝私だけかもしれない〟って。
でも、それはすぐに違うのだと思い知らされることの繰り返し。
次の瞬間には、すぐ隣で別の女の子に同じ顔してうまいこと口にしてるんだから。
だから私は、なるべく紺野と距離を取って、うまく先輩後輩としての付き合いをしていこうと思っていた。
それなのに、いつもいつでも、紺野という年下の男は私を翻弄してくるのだ。
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