Which one？
「美里さん。なんか疲れてます？　ボク、手伝いますよ」
「そんなことないよ。私はいいから、他の人のヘルプに回って」
「でも」

確かに手持ちの仕事は山だけど、もっと困ってる後輩は他にいるだろうし。ていうか、一応先輩だし、その辺のプライドも欠片ながらあるっていうか。

「橘がいいっつってんだ。早く他行けよ。どうせ行くとこはいっぱいあるんだろ、紺野は」

それでも紺野の好意はわかるから、これ以上無下には出来ないし、と悩んでいるところに低い声が割り込んできた。

紺野と一緒に振り返る。そこには、私の先輩でもあり上司でもある布川さんが立っていた。

「橘。こっち、締切早まって至急手伝ってほしい。調整できるか？」
「あ、はい。なんとか」
「悪いな。その代わり、これが終わったら他の案件、俺がフォローするから」

紺野とは正反対の、落ち着いた雰囲気の口数が少ないタイプ。

そんな布川さんだけど、決して苦手だとは思ったことはない。それは、やっぱり仕事に関しての信頼もあるし、絶対に横暴な態度はとらないって入社当時から知ってるから。

今回もそう。
仕事でちょっとキツイ〝振り〟をしてくることはあるけど、必ずその見返りをくれる。

布川さんから書類を受け取り、ふと紺野を気にして視線を向ける。

すると、すでに紺野は私のデスクから離れていて、他の人に話しかけている背中が視界に映るだけだった。
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