惑わす誘惑。
私を惑わすものは
明日提出の資料はまだ終わらない、午後9時頃。私は伸びをして、それから少し休憩することにした。
オフィスに残っている人は疎らだった。こんな時間まで残業するのは久しぶりな私。こんな時は彼に会いたくなってしまう。
そんなことを考える自分に溜め息がでた。
「...楓さん、お疲れ様です。」
そう言って近付いてきたのは後輩の里美ちゃんだった。
「お疲れ様。」
そう言い返せば、彼女は右手で持っているそれを軽く上げると、"楓さんもどうですか?"っと言われた。
私は一瞬揺らいだ気持ちを誤魔化し、ゆっくりと首を横に振って笑った。それから彼女は納得したように頷いて、オフィスを後にした。
ダメだ、とその考えを払うかのように、私は引き出しから財布やメイク道具のはいったポーチをひとつ掴んで立ち上がった。
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