拾われサンタ、恋をする
「小田さんは体調悪くなってない?……じゃあ、いいけど。そうかな、ストレス溜まってるようには見え───はいはい、また付き合います。うん、お疲れ様」
ポケットの鍵を探して通路の角を曲がった辺りだろうか。
子供の声に呼ばれた気がして、ふと顔を上げた。
「よしひろ君!」
「優衣ちゃん?」
慌てて終了ボタンを押したけれど、小田さんに聞こえてないだろうな。
もし何か聞かれてたら、次に会った時にまたつっこまれそうで怖い。
優衣ちゃんは広いとは言えない通路を、白い息を吐きながら僕に向かって走ってきてくれる。
近くに来るまで信じられなかったが、この子はまさしく優衣ちゃんだ。
「どうしたのこんな時間に!それに、よくここが分かったね」
優衣ちゃんは僕のお腹にボフンと顔を埋めた。
「じいじが連れてきてくれたの」
「え?」
優衣ちゃんを抱き留めたまま下の駐車場を見ると、確かに教授の車が見える。
なんで教授が?というか一体いつから?
頭の中で状況が整理できないまま、優衣ちゃんに引っ張られて僕の部屋の前まで歩いた。
そこには、久しぶりに見る亜紀さんの顔。
「おかえりなさい」
「……ただいま」
いやいや、条件反射で返事をした自分の頬を引っぱたいてやりたい。
「じゃなくて、どうして亜紀さんと優衣ちゃんがここに?寒かったでしょう、連絡してくれたらよかったのに」
「だって連絡したらサプライズじゃなくなっちゃうから」
「何を言ってるんですか。とりあえず二人とも中に入って。体を冷やしたら……」
焦り過ぎて取り落した鍵が、玄関前で耳障りな音を立てる。
ぴょこんとジャンプひとつで僕の足元に飛び込んできた優衣ちゃんが、何でもないようにそれを拾ってくれた。
「突然押しかけてごめんなさい。あの、お部屋にお邪魔するつもりで来たんじゃないんです。南くんに渡したいものがあったので」
亜紀さんは後ろ手に持っていた紙袋を、僕に向かって差し出した。