拾われサンタ、恋をする
「………綺麗ですね」
「え?あ、そうですね。いい月ですよね」
「そうじゃなくて、亜紀さんが」
心に浮かんだことを何も考えずに口にしてみた。
月明かりに照らされて、優しさに満ちた笑顔を見せるこの人が本当に綺麗だと思ったから。
見とれる気持ちのままに見つめていたら、照れてしまったらしい亜紀さんに目を逸らされてしまった。
クスクス笑いを漏らした僕を、きょとんと見てくる優衣ちゃんとも共謀する。
「ねえ、優衣ちゃん。ママって綺麗だよね?」
「うん!ママはいっつも可愛い!笑った顔が一番カワイイ!」
「そうだね、僕もそう思う」
言いたいことを代弁してくれた優衣ちゃんに合わせてみた。
亜紀さんはというと、もう居たたまれないといった具合で必死になって顔を隠している。
「どうして二人で一緒になってからかうの!」と情けない言葉を返すのが精いっぱいという体だ。
年下男と保育園児相手にありがとうの一言で流せない辺りが子供っぽいというか、この反応こそが亜紀さんの素なのだということは僕もよく分かっている。
世間体だとか、人間関係だとか、物事の判断材料から邪魔なものをポイポイ引き算してしまった時に残るもの。
それが自分の本当の心なんだとすれば――――僕は亜紀さんのそばにいたい。
一人肩を抱いて踏ん張って生きるこの人を、外側から包み込むように。
ひょろっこい研究バカの僕がこんな気持ちになるなんて。
「からかってませんよ、正直に言ってみただけです」
「しょ、……う、ううー」
「ははっ」
改めてセーターのお礼を切り出すまで、亜紀さんは照れの極致から帰ってこなかった。
優衣ちゃんを抱っこしたまま二人をマンションの駐車場まで送る。
二人を後部座席に押し込んだ後で須藤教授にも礼を述べると、運転席の窓を開けて手招きされた。
「なんですか」
「いや………いつも無表情な教え子が何かふっきれたような顔をしているから。何かあったのか」