拾われサンタ、恋をする
サンタ、外出する
フルタイムで働きながら子育て中という亜紀さんとは、簡単に会うことなど叶うわけもなく、電話でゆっくり話すことも難しい。
連絡手段といえばメールのやり取りが主で、それが実は僕にとっては都合がよかった。
僕はとにかくポンポンと気の利いた言葉が出てくるヤツではないからだ。
自分のタイミングで返事ができるとなれば、見返して確認することもできる。
「文通だとか交換日記で想いを交わした時代に生まれたかった……」
今までの人生でこんな独り言が何度出たかしれない。
『パソコン用の眼鏡、作ってみようかな。
もし時間が合えば一緒に行ってもらえませんか』
この二文に行き着くまでは、自分では自然な流れだったと思う。
草食系男のなけなしの勇気、一応綿密な計算がなかったとは言わないが、この場合むしろ作戦と言っておこう。
だって会いたかったから。
亜紀さんがまた無理をしていないか、優衣ちゃんは楽しく過ごしているか、会わないと分からないことはたくさんある。
草食だ、淡泊だと散々言われてきた僕だけど、惹かれる女性に会いたいと思う気持ちくらい持っている。
『最近パソコン使ってると目が疲れるんですよね(笑)』
会話の流れで僕が打ったメールがこれだ。
内容は初老だが、最後のカッコ笑で若さをアピールしたつもりだった。だけど……
『合わない眼鏡を使ってませんか?
目は大切にしなきゃダメですよ!』
亜紀さんにまっすぐ捉えられて心配をかけてしまった所から今回の出来事につながる。
ああ完全にスルーされた僕のカッコ笑……こんな文面、普段絶対に使わないのに。
軽く落ち込む僕に続いてこんなメールが送られてきた。
『そういえば、父が最近ブルーライトを軽減してくれる眼鏡を作ったって言ってました。南くんはそういうの使ってないんですか?』
亜紀さんが指したそれは、前々から気にはなっていたものの、その時々で普段の眼鏡と掛け替えるのが面倒だから手を出さずにいたものだった。
孫バカ親父に先を越されたことが妙に悔しい。