拾われサンタ、恋をする
軽く身の上を知ってしまったせいで、その言葉の重みが半端じゃない。
無意識につられて、他人には見せない本心まで口にしてしまう。
「僕の場合、好きな人を失う失恋とは違う気がします。実際こうなっても、追いかけようとは思わないっていうか。まあいいかって思うんですよね」
「簡単に諦められる……てことですか」
「はい。でも彼女に対してじゃなくて、自分の立場に」
女性は少しだけ首を傾げた。
わからなくて当たり前だろうな。
わざわざ噛み砕いて説明するのは気恥ずかしいけれど、欠片を見せた以上責任は僕にある。
「理系の男だらけの中では彼女持ちっていい身分なんです。つまりは……いい気になっていたかっただけです。実際、僕なんて全然もてませんから」
ヨレヨレの白衣と眼鏡が僕のベーシックだ。
それに比べて、お洒落でセンスのいい男性なんて、世の中には溢れている。
僕なんかに彼女がいたことが、奇跡に近い。
「……別にいいじゃないですか」
弱った心に届く、共感してくれる声に顔を上げる。
「誰だって見栄を張りたい事もあると思う。私なんていいお母さんに見えるように、色んなこと無理してしがみついてますよ」
そっちの方が格好悪いくらい、と言って泣き笑いのような表情を浮かべた。
虚勢を張るのは自分を守るため―――そう考えれば僕も、この人も、同じように弱い。
カップを両手で持つ女性の手が視界に入る。
短く丸く切られた爪。
この間まで僕が知っていた女性の指先は、割れそうなほど伸びきって、デコデコ盛られてあったはずだ。
「綺麗な指……」
思わず、口に出して呟いた。