拾われサンタ、恋をする



これを機に作ってみるのもいいかもしれないし、ならいっそ見立ててもらえないだろうかと考えて前出のメールの内容を送ってみた。


亜紀さんから金曜日の午後は空いていると前向きな返事をもらって、無事約束を取り付けた。







待ち合わせ場所に先に着いたのは僕ではなかった。


オフホワイトのダッフルコートに黒のマフラー、肩から小さなバッグをかけた姿で立っている亜紀さんを見つけて、僕の鼓動がひとつだけ大きく打った。


彼女のパジャマ姿まで見ているにも関わらず、こういう改まったお出かけ着というのは新鮮だったから。


嬉しくてにやけそうになった自分を収めてから声をかけた。


「すみません、お待たせしました」


「こんにちは。そんなに待ってないですよ。学校お疲れ様でした」


からかいを振り払って研究室を抜けてきた僕に向けられる柔らかい笑顔。


せっかく元に戻った顔がまた緩みそうになる。


努めてクールに再会を果たしたところで、僕はいつもと調子が違うことに気が付いた。


「あれ?優衣ちゃんは?」


「優衣はまだ保育園ですよ。今日、参観日で私は仕事を休ませてもらってたんです。ちょっと息抜きにもなるし」


「ああ、それで今日………」


「はい」


休日を僕のために潰してくれたと分かって感謝と感動がこみ上げるところに、最高に可愛い笑顔が来た。


思いもよらない二人きりの外出で、自分にだけ向けられる彼女の笑顔。


………今日一日持つのかな、僕。


「父が眼鏡を買ったお店聞いてきました。確かメモがここに……」


そう言ってバッグの内ポケットを探り始める亜紀さん。


僕は目的があるのに当てもなく歩くつもりはなかったから、事前に店の名前も場所も調べて頭に入っている。


でも亜紀さんが、一生懸命メモ書きを探している姿を見ていたら………言えるわけないだろう、いいよ待つよ何分でも!



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