拾われサンタ、恋をする
名前を名乗ったところで、この人とはもう会うこともないのかもしれないけれど。
「お見送りで名乗るのも変ですね……私は寺嶋亜紀といいます。娘は優衣。明日の朝の娘の反応が楽しみです」
今日一番の笑顔を見せて、亜紀さんがそう言った。
そうか、僕は優衣ちゃんの驚く顔を見られないんだな。
残念だけど、仕方がない。
「それから、お邪魔した僕が言う権利ないんですけど、こういうの気を付けたほうがいいと思いますよ」
「どういうのですか?」
「親切心でも夜に見ず知らずの人間を家に入れたりすることです。色々、物騒なこともありますし」
念のために忠告してみれば、亜紀さんはパッと口に手を当てた。
……気付いてなかったな、その顔は。
「じゃあ、僕はこれで。ちゃんと鍵締めてくださいね」
「はい。ありがとうございました」
家から出た後、鍵とチェーンが掛けられたのを音で確かめてから、僕はそこを後にした。
人の気配がなくなった紗理奈の部屋を、素通りして。
見栄のために、しがみついた関係が終わる。
それによって隙間の空いた場所を、不思議な出会いがふんわりと温めてくれた。
寝顔が可愛かったあの女の子が、明日の朝どんな笑顔でいてくれるのか。
想像するだけで、胸がいっぱいになった。