拾われサンタ、恋をする


「そうなのか。早く戻ってこいよ」


「……はい」


亜紀さんから目を離さずに返事をしていたら、彼女の方も僕に気がついたみたいで、小さく「あ」と漏らした。


僕はどういう対応が不自然じゃないか考え抜いた末、ペコリと会釈するにとどめる。


亜紀さんも軽く頭を下げてくれて、とりあえずそこですれ違った。


廊下に出て考えてみても、やはり見間違いではなさそうだ。


なんで大学に?なんで須藤教授と?


自分の居ないところで妙なことを言われたらと思うと気が気じゃなくて、僕は急いで用を足した。


洗面所にある鏡を覗いてみたら、細面に黒ブチ眼鏡の冴えない男が、ボサボサの髪で立っている。


うわあ、変なとこ見られた!


濡れた手で、髪を押さえつけてから駆け戻った。


研究室では、一度は散ったはずの男どもの人垣が、再度復活している。


クマ先輩が張り切っているのが、なんとなく痛い。


「須藤教授にこんな綺麗な娘さんがいらっしゃったなんて!」


「お前らみたいな生物オタクに大事な娘を紹介できるか、阿呆」


「教授が筆頭じゃないっすか、よく言う……」


何はともあれ、むさ苦しい所に現れた花に、男どもは感激しきりだ。


その中に入るのは気が引けた僕は、用が終わったパソコンの前にまた腰をおろした。


亜紀さんは、先日会った時の部屋着とは違って、フワッとした淡い色のセーターにデニム姿だ。


ナチュラルな服装だが、子供がいると言わなければ、絶対お母さんに見えないだろう。


「いつも父がお世話になってます。今日は教授室の掃除をしに来ました。放っておくと本で埋まってしまうので、この人」


亜紀さんから説明があり、皆それぞれ須藤教授の部屋を思い出して「確かに」と頷いている。


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