拾われサンタ、恋をする
「皆さんも何か用事があればお手伝いしますので、おっしゃってくださいね。買い物くらいならできますよ」
彼女はそう言って、愛想のいい笑顔を浮かべた。
「優し……いいよ、娘いい!娘サイコー!」
「馬鹿なこと叫んでないで、さっさと作業しろ!このペースだと、お前らの正月潰れるぞ」
「はい!お義父さん!」
「誰がだ全く……」
ため息をつく教授の横で、亜紀さんは楽しそうに笑っている。
気を使ってくれたのか、僕に声をかけることはなく、彼女は研究室を出ていった。
……このままでいいのかの自問自答。
止まりそうだった僕の時計の針を回してくれたあの人に、もう一度会えたらと思う気持ちがあった。
話を聞いてもらったお礼が言いたくて。
まさか院に入る前からずっとお世話になっている教授の娘さんだったなんて、考えもしなかった。
亜紀さんは、ここへは挨拶をしに寄っただけのようだ。
須藤教授の部屋を片付けた後、またここに来てくれるだろうか。
もしかしたらそのまま帰ってしまうかも……
「……すいません、僕もう一回行ってきます」
「南?トイレか?お前さっき行ったばかりじゃないか」
「実は腹の調子がイマイチなんです」
「む、そうか。季節がら心配だな。それなら行ってこい」
「失礼します」
研究に集中している仲間たちは、もう大人だから。
あとで「○コたれ」なんてガキみたいなことは言ったりしない。
そうだろう、みんな?
「………」
肩揺らして笑い堪えてんじゃねーよ!
「教授室……八階か」
講義中の時間が幸いして、エレベーターをすぐにつかまえることができた。
着いてすぐに、開きかけのドアから体を通して駆け出す。
廊下を曲がった所で、掃除機を運んでいる亜紀さんの姿を見つけた。
「あ……!亜紀さん、待って!」
つい大声で呼び止めてしまい、彼女も急いで振り返る。