拾われサンタ、恋をする
保育科の入っている校舎なんて来たことも入ったこともないから、どうあっても緊張する。
なにせ女子が多い。
白衣は置いてきて正解だった、あんなもの悪目立ちすること請け合いだ。
実習室プレイルームと書かれた文字もまた可愛らしく、扉には小さい子供たちに人気のキャラクターがたくさん貼ってある。
『くつをぬいでからはいろうね』
そう言っているのは、確か頭がアンパンの……
「南くん」
突如自分の名前が呼ばれ、肩がはね上がる。
「ごめんなさい、お待たせしました」
「そんなに待ってないですよ」
自分の時間の感じ方が長く思えただけで。
「すぐ優衣呼んできますね。あ、よかったら一緒にいきましょう」
いきなり入っていいのかな、と思っている内に亜紀さんが行ってしまいそうだったので、僕も急いで……まず靴を脱いだ。
これでいいんだろう、アンパンの人。
中は広くて、模擬幼稚園と言った雰囲気の実習室だ。
エプロンやジャージ姿の学生が、絵本の読み聞かせの練習などをしている。
「あそこにいます」
亜紀さんが指差した先に、ジャンパースカートを着た女の子の背中があった。
「優衣ー」
「あ!ママぁ!」
顔を見られたことよりもまず、カーペットの部屋を飛び出し、ツルツルの床を走ってくるその子にハラハラした。
そのタイツ、ちゃんと滑り止め付いてる?
「もうご用事終わったの?」
「終わったよ。じいじのお部屋ピカピカにしてきた」
「じいじ、お片付けだめだもんね。優衣の方のがすごいねー」
須藤教授―――じいじって言われてる!
教授にはちょっと格好つけてる中年親父のイメージを持っていた僕は、それだけで笑いそうになる。
亜紀さんは一緒にいてくれた学生達に丁寧に挨拶をしていた。
お礼にと焼き菓子のような物を渡している。
きちんと準備をしてくる辺り、亜紀さんは本当にしっかりしている。