拾われサンタ、恋をする


「優衣ちゃんは本物のきびだんご食べたことある?」


「ない」


「今度買ってきてあげようか、きびだんご」


「ほんと?」


期待で大きく開かれる目に頷いて答えると、「やったー!」と跳び跳ねながらまた走り出した。


「いいんですか、子供とそんな約束して…」


「はい、正月に帰省するのでその時にでも。あ、僕の実家が岡山なんです」


「岡山県って桃の?」


訊ねてきた亜紀さんの顔が、さっきのきびだんごを待つ優衣ちゃんの表情とそっくりだ。


「桃も有名ですね……ハハ、好きなんですか?残念ながら今はシーズンじゃなくてですね」


「え!別に催促したわけじゃ」


「だけどそんな顔してました、食べたいなーって」


慌てて赤くなる顔は予想通りだ。


年上のこの人に、なんだかしてやったりな気分になる。


「じゃあ、亜紀さんには何か他のもの見つけてきます」


「私までいいですから」


「さっきはお礼を言ったら、謝られてしまったので。その代わりだったらいいでしょう?」


僕の強引な提案に、しばらく考えてから俯いて「はい」と言ってくれた。


昼から教授と待ち合わせているということで、僕はそこで二人と別れることにした。


お土産を持っていく時のために、連絡先も教えてもらう。


ここ最近の僕は、本当についていなかったから……


どん底だったクリスマスの夜に拾ってくれたこの人と、繋がりを持てたことが嬉しい。







「じいじー」


「優衣。元気になってよかったなぁ」


大学教授の須藤が、腕に飛び込んできた孫をぎゅうっと抱きしめる。


小さい子供が寝込んでいるのは、大人から見ると本当に切ないことだ。


ましてかわいい孫となると。


「クリスマス寂しかった代わりに、今日はうんと美味しいもの食べようなぁ!」


「おさかなー!おこぜ!」


「優衣……そろそろハンバーグくらい言ったらどうだ?」


初めておこぜを優衣に食べさせたのは、何を隠そう須藤この人である。


家族で旅行に行った温泉宿で、怖がる孫に面白がって勧めたのだ。

< 29 / 111 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop