拾われサンタ、恋をする
サンタ、帰省する


年末の新幹線移動は大混雑で、よほどの気合いがなければ参戦は難しい。


だから毎年、「正月くらいは顔見せろ」と言ってくる親からの連絡に、戦々恐々として備えている僕だ。


だけど今年は、優衣ちゃんと約束した吉備団子という大本命がある。


クリスマスが終わっても、サンタは子供のために努力を惜しまない。


早目に指定席おさえといて正解だったな。


東京駅の切符売場にできる長蛇の列を見て、心の底からそう思った。


新幹線のおかげで岡山駅までの移動は短時間で済むけれど、実家まではそこからが大変だ。


乗り換えを経て、北へ北へ。


県北に向かって電車は進み、少しずつ雪景色になってくる。


屋根が真っ白な帽子を被った駅が見えたら、ようやく僕の地元だ。


「うー寒い!」


顔に当たる風が冷たすぎて痛い。


夏に戻ってきたときは何とも思わないのに、この風を感じるとここは故郷だと思う。


手渡しの改札を出て、迎えの車を探してみるも……いない。


時間を間違ってんのかな?


手袋を外し、かじかむ指でなんとか家に電話を掛ける。


『はい南です』


出てきたのは母親だった。


「……もしもし?僕、義大」


『ああ!アンタ今どこにおんの?』


「駅着いたんじゃけど、父さんがおらん」


『はあ?こっち着くのいつも夜じゃろーが。父さーん、義大もう着いた言いよるよー!』


「………」


まだそこにいるんかい!


時間言ったぞ、絶対三回は言った!


父から母に伝えられた伝言は「すぐ行くからその場で待て」というものだった。


車で片道三十分以上はかかるはずだ。


父さん……あなたの忘却ミスで長男凍死したら、正月早々ニュースにあがっちゃうよ?

< 31 / 111 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop