拾われサンタ、恋をする
小さな駅は年代物の木のベンチが置いてあるだけで、屋根はあっても壁がない。
寒いと文句を言っても他に座るところもないので、荷物と自分とでそこを占領する。
すぐそばには、パンフレットが数枚ずつ入ったホルダーがあった。
この駅で観光PRする強気の役所を褒めてやりたい……
時間を潰すならせめて岡山駅にいればよかった。
土産物のお店も多いし、何より店に入ってコーヒーでも飲みながら時間を潰せたのに。
「ここで育ったんだよなぁ……」
暑い日も寒い日も、子供の足で一時間くらい歩いて学校へ通った。
スポーツは苦手で特に経験はないけれど、この環境のおかげか体はとても丈夫に育ててもらった。
「すまんすまん!義大ー!」
体が芯まで冷えきった頃、駅に横付けした車の中から父が呼んだ。
やっとこの寒さから解放される。
僕は安堵して、いつもよりきびきびと後部座席に乗りこんだ。
「すまんなぁ、時間忘れよーた。怒りょーたか?」
「別に怒らんよ、こんくらいで」
「はっは!変わっとらんねぇ、義大は。子供の頃から殴られても怒らん子やったけぇ、父さんは心配したもんじゃ」
「そ?父さんと母さんは貴大(たかひろ)ばぁ怒っとったが」
「アイツは義大と違うて馬鹿じゃけぇな」
弟の貴大は僕より二つ下だ。
僕とは正反対の人間で根っからの勉強嫌い、周囲の励ましの中どうにか地元の高校を卒業した。
今は地元の運送会社で社員として働いている。
「義大が東京の大学決まった時に、大泣きしよったなぁ貴大は」
兄ちゃん!行っちゃおえーん!俺、兄ちゃんおらんかったら卒業できんがぁー!
引っ越しの前日、本気の土下座を入れてきた弟の顔を思い出して、窓の景色を見ながらプっと吹いた。