拾われサンタ、恋をする
年が明けて二日の朝、僕は一人で近くの和菓子屋に出掛けた。
亜紀さんに買って帰ろうと思っているお土産は、実は迷うまでもなく決めていた。
亜紀さんが桃と聞いて目を輝かせた瞬間の顔は、初めて見た幼い表情で、どうにも忘れられない。
車でやって来たのは、この辺りでは有名な老舗の和菓子屋さんで、正月の営業日はこの店のファンである母に確認済みだ。
「お邪魔します」
「いらっしゃい……あらぁ!南さんとこの!」
「はい。明けましておめでとうございます」
「おめでとうさん!おーおー相変わらずの好青年じゃあ!確か東京の学校に行きょーるんじゃねぇ?」
僕の情報を、母を通じてよく知っている人の一人だ。
田舎は色々と付き合いが狭くて深い。
「白桃のゼリー、まだありますか?」
「あるよぉ!うちの名物じゃけぇね」
「数はそんなにいらなくて、五個もあればいいんですけど」
「かまわんよ。用意するけぇ、ちょっと待ちねぇ」
綺麗な箱を選んで入れてくれるのを見ていたら、クリスマスにクマの包装で一悶着あったお兄さんを思い出した。
あの人は今日から仕事初めかな。
「義大くん、こんなんでええ?」
「十分ですよ。ありがとうございます。地元の土産ならこれかなって思って」
「小さい頃からえらい気に入ってくれよぉたねぇ。嬉しい嬉しい。一個おまけしとくけぇよ。帰ってきた時はまたおいでぇ」
「ありがと、おばさん」
久しぶりに顔を見せたのに親切にしてもらい、満足感に相乗効果を感じる。
車の助手席にそれをそっと置いて、落ちないよう家まで気を付けて帰った。
*
「未来のノーベル生理学賞、南義大が来ただぞー!」
「おかえり!博士ー!」
「……ただいま、お前ら何時から飲んでた?」
夕方顔を出した同窓会は、早い奴は朝から来ていたとのことで、何人か既に出来上がっていた。
離れた席から「よ!」と恩師の森先生が手で挨拶してくれる。
僕は酔っぱらいをかき分けて先生の近くの席にたどり着いた。