拾われサンタ、恋をする


「ありがとうございます、南先輩!ありがとうございます!」


「もういいから、急いで。駅混んでるよ」


もう最後は追い立てるように、彼の背中を押して帰らせた。


一人になってみれば、当然だが研究室はとても静かだ。


慣れた場所だから落ち込んだりはしないけれど、本もなにも持ち込まなかったから、時間を潰すものがない。


明日から出てくる学生がいたら、仮眠を取らせてもらおう。


視線を移すと、しばらく見ないままでいたスマホが点滅していた。


昨日会った地元の奴らで作ったグループに、未読の会話が溜まっていた。


『明日から仕事嫌だ』
『雪降って電車とまれ』
『正月太り後悔しきれない』


思い思いの呟きがほとんど愚痴ばかりで面白い。


『一足先に東京。みんな仕事頑張って』


僕からは励ましのメッセージを送った。


仕事が始まる人が多いってことは、優衣ちゃんも明日から保育園なのかな。


二人の普段の生活を何も知らない僕は、どういうタイミングでお土産を渡しに行けばいいのか、非常に難しい。


時間もまだそんなに遅くない。


液晶画面に亜紀さんの名前を映したり消したりすること三回、ようやく思いきって亜紀さんに電話をかけてみた。


『……もしもし?』


「こんにちは、あの、南ですけど」


『はい、あけましておめでとうございます』


「おめでとうございます。今年も……」


よろしくお願いします、と言いかけて僕は咳払いで誤魔化した。


だって変だろう、友達でも仕事仲間でもないのに。


『今年もよろしくお願いします』


「………」


きっとそんなことを何も考えていないだろう、亜紀さんの方から先に言われた。


返さないのも変なので、小声で「こちらこそ」とだけ言った。


「亜紀さんは明日からお仕事ですか?」


『そうなんですよ、今日の夜にはマンションに戻ろうと思ってます。あ、今は実家なんです』


「須藤邸ですか」


『あはは!そうですね、須藤邸です。父は出掛けてますよ』


親に知れたらまずい仲――――いや、そんなことないか、知り合いってだけだから。


でもなぜか教授には、素直に関係を言いにくい。

< 43 / 111 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop