拾われサンタ、恋をする
「ありがとうございます、南先輩!ありがとうございます!」
「もういいから、急いで。駅混んでるよ」
もう最後は追い立てるように、彼の背中を押して帰らせた。
一人になってみれば、当然だが研究室はとても静かだ。
慣れた場所だから落ち込んだりはしないけれど、本もなにも持ち込まなかったから、時間を潰すものがない。
明日から出てくる学生がいたら、仮眠を取らせてもらおう。
視線を移すと、しばらく見ないままでいたスマホが点滅していた。
昨日会った地元の奴らで作ったグループに、未読の会話が溜まっていた。
『明日から仕事嫌だ』
『雪降って電車とまれ』
『正月太り後悔しきれない』
思い思いの呟きがほとんど愚痴ばかりで面白い。
『一足先に東京。みんな仕事頑張って』
僕からは励ましのメッセージを送った。
仕事が始まる人が多いってことは、優衣ちゃんも明日から保育園なのかな。
二人の普段の生活を何も知らない僕は、どういうタイミングでお土産を渡しに行けばいいのか、非常に難しい。
時間もまだそんなに遅くない。
液晶画面に亜紀さんの名前を映したり消したりすること三回、ようやく思いきって亜紀さんに電話をかけてみた。
『……もしもし?』
「こんにちは、あの、南ですけど」
『はい、あけましておめでとうございます』
「おめでとうございます。今年も……」
よろしくお願いします、と言いかけて僕は咳払いで誤魔化した。
だって変だろう、友達でも仕事仲間でもないのに。
『今年もよろしくお願いします』
「………」
きっとそんなことを何も考えていないだろう、亜紀さんの方から先に言われた。
返さないのも変なので、小声で「こちらこそ」とだけ言った。
「亜紀さんは明日からお仕事ですか?」
『そうなんですよ、今日の夜にはマンションに戻ろうと思ってます。あ、今は実家なんです』
「須藤邸ですか」
『あはは!そうですね、須藤邸です。父は出掛けてますよ』
親に知れたらまずい仲――――いや、そんなことないか、知り合いってだけだから。
でもなぜか教授には、素直に関係を言いにくい。