拾われサンタ、恋をする


ロッカーで帰り仕度をしていたら、大西が追いかけてきて、勢いよく頭を下げた。


「南先輩すみませんでした!俺の未熟な実験に付き合わせてしまって!」


「気にしなくていいよ。僕も院に入る前は無駄なことたくさんやって、反省ばっかりだったって」


「違うんです、俺……先輩が優しいからって、甘えてしまった自分が許せないです」


そう言って、本格的にポロポロ涙をこぼし始めた。


……よく泣く奴だな。


「あの実験ノート見たら、大西がどれだけ真剣に取り組んでたのかよく分かった。たぶん須藤教授もね」


「でも全然的外れだったんです……」


「後で気づけばいいんだよ」


まだ俯いて顔を上げられない大西の肩をポンポンと叩く。


「一人で落ち込んでるときに、冷静な判断できる人間もいないんじゃない?もういいから、気持ち切り替えて、今日から頑張れ」


「……ありがとうございます」


「じゃあ僕は帰るから、ロッカールームの戸締まりお願い」


大西も一人で顔を直す時間が必要だろうと思い、僕が先にそこを去ることにした。


今から出勤、通学しようという人の波に逆らって歩く僕は、人の目にはきっと滑稽に映るだろう。


しかも大きな旅行鞄を抱えて移動だ。


……誰も僕が徹夜明けの人間だとは思わないんだろうな。


疲れてはいたけれど、せっかく得た休みを有効に使いたい欲求も出てきて、カフェで優雅に朝食を済ませた。


本屋とスーパーにも立ち寄り、マンションに着いたのは昼近くだった。


五日ぶりの自分の部屋だ。


入った途端にどっと襲ってくる倦怠感。


さっきまで大荷物担いで歩き回っていたのに、人間の精神的な部分がいかに大きいかという現れだと思う。


シャワーを浴びても一向に頭がすっきりしない。


「けっこうキツいなぁ」


独り言ひとつでベッドに入ってから、僕の意識は途絶えることになった。


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