拾われサンタ、恋をする
大型の書店で思う存分新書を漁り、どうにか時間を夕方まで進めた。
ファーストフードに行って腹を満たす。
学校帰りの学生がチラチラ現れ始める頃になっても、亜紀さんからの連絡は全くない。
こちらからの連絡もつかないままだ。
ここにきてようやく、マイペースな僕といえども不審に思う。
携帯を忘れて外出しているのならいい。
むしろ、そうであってくれた方がいいけれど……一人しか大人がいないあの家庭で、当の亜紀さんに何かあったらどうなる。
そっちに考えが向き始めたら、恐ろしい思考が頭の奥に溶けない氷のように棲みついた。
確かめに行こう、行って何もなければそれでいいのだから。
僕はトレーに乗っているゴミを、溢しそうになりながらゴミ箱へ突っ込んだ。
ラッシュ前の電車に乗り、亜紀さんのマンションに向かう。
前回クマを担いで通った時と、全く異なる心境で。
「無事でいてよ……亜紀さん、優衣ちゃん」
嫌な予感なんて当たらなくていい。
僕にとって忘れられないこのマンションを、一息に三階まで掛け上がった。
階段の真ん中にきて気がついた子供の泣き声。
――――予感は確信に変わる。
「……優衣ちゃん!」
「うああ……よしひろ君」
裸足で、涙でぐちゃぐちゃの顔をした女の子は優衣ちゃんに間違いなかった。
上着もなく、いつからそこにいたのか。
その冷えきった体を、僕は思いきり抱き締めた。
「優衣ちゃん、ママは?」
「……っ、ママがお話ししなくなったのぉ!」
「わかったよ、一緒に家に入ろう」
小さい体を抱き上げて家の中に入ると、夕方だというのに電気が付いていない。
「亜紀さん!亜紀さん上がりますよ!」
「ママぁ!」
優衣ちゃんは自分から下りて、僕のズボンを引っ張り連れていこうとする。
きて、とか。こっちだよ、とか。
この事態の中で言葉を探せるほど大きくないこの子が、切なくてたまらない。