拾われサンタ、恋をする
「できたの」
「靴下もちゃんと履けたね。優衣ちゃん、ママはいつからお話しできなくなったのか教えてくれる?」
「一緒にお昼寝してから」
「お昼寝の後か……」
なんとなく状況が見えてきた。
平日なのに優衣ちゃんが家にいることから考えて、具合が悪かった亜紀さんは仕事を休んでいたのだろう。
体調が悪いまま優衣ちゃんの世話をして、お昼寝の時間に自分も横になり、そこで力尽きた。
そう考えると、倒れてからそんなに時間は経っていないはずだ。
「ママお目め開く?」
「今は疲れているからね。病院で治療してもらえばすぐ元気になるよ。一緒に頑張ろう」
「ママぁ……」
「………」
ああ、ほんとに、僕って奴は。
不安で震えるこの子に、笑顔ひとつ向けてやれないなんて。
どんな顔をするべきなのか、僕にとっては超難問の数学よりも難しい。
……ごめんよ、そばにいるのがこんな僕で。
優衣ちゃんの手と亜紀さんの手を握って待っていたら、近づいてくる救急車のサイレンが聞こえて、まるで希望の鐘のように思えた。
「ここにいて」
優衣ちゃんをその場に残し、急いで救急隊を誘導しに向かった。
「患者さんは?」
「こっちです」
そこからはドヤドヤと三人の隊員が入ってきて、亜紀さんの容態の確認を始める。
こうなったら外野が口を出さない方が作業が速い。
僕は、仰々しい出で立ちの隊員を怖がる優衣ちゃんを抱きしめて、思いつく限りの声を掛けるに徹した。
「大丈夫だよ、この人たちがママをお医者さんの所に連れていってくれるんだ。ママと優衣ちゃんの味方なんだよ」
「……うん、優衣も行く」
そう言って僕の肩に顔を埋める優衣ちゃんを宥め続けた。
「それでは今から搬送します。救急車には誰が付き添われますか」
「僕とこの子が」
「失礼ですが、ご主人ですか」
「いえ、知人です。病院が決まれば親御さんが来てくださるとのことです」
「わかりました。ご通報いただいた方の連絡先などもうかがうことになりますが、よろしいでしょうか」
「もちろんです。それから、健康保険証の場所が分からないので、親御さんが来られてからでないと準備ができません」
「了解しました」
話している間に、亜紀さんを乗せたストレッチャーが持ち上げられる。