拾われサンタ、恋をする
亜紀さんが一般病棟へ移ることになり、僕は優衣ちゃんと手を繋いで皆の後を付いて行った。
教授の奥さんが僕達のことを、チラチラと不思議そうに見てくる。
そりゃあそうですよね、ごめんなさい。
ご挨拶もできないままで。
不審者扱いされる前に、さっさと説明してしまいたいんですけどね。
沈黙の中の第一声は看護師さんだった。
「入院手続きの説明をさせていただきますので、どなたかお一人、事務所にいらしてください」
私が、と手を挙げた奥さんが僕の方に会釈してから、看護師さんに付いて行く。
優衣ちゃんは固定された点滴を、不思議そうに見つめている。
その手にあるお土産袋に気付いた須藤教授が、ぽつりと呟いた。
「……もしかして吉備団子、か?」
「うん。よしひろ君があげるって」
「なるほど、約束していたというのは南のことだったのか……」
教授の中で何かが繋がったらしかった。
ここは自分から行くべきだろう。
「本当は昨日持っていく約束だったんです。優衣ちゃんを驚かそうと思って、亜紀さんと時間を合わせて。それを僕が寝過ごしてしまってですね……」
僕がちゃんと約束を守っていれば、異変に気づくことができたかもしれない。
それが悔やまれる。
「今日になって朝から連絡がつかなかったので様子を見に来たら、優衣ちゃんが外に出て泣いていたんです。それで教授に連絡を入れさせてもらいました」
「気付いてもらって助かった。優衣一人ではどうしようもなかっただろうからな。その点ではありがたいんだが……南、お前亜紀とはどういう関係だ?」
そこですよね。
優衣ちゃん前にしてどう言えばいいんだか本当に分からないんですが。
「偶然と言えば偶然なんです。……以前僕がお付き合いをしていた女性が、優衣ちゃん達が住むマンションのお隣さんだったんですよ。だからその、顔見知りのようなものだったというか。須藤先生の娘さんだと知ったのは、年末に大学で会った時です」
「そうだったのか。南のことはよく知っているし、変なことは考えていないから安心してくれ」
どうやら信頼してもらえているらしい。
普段から素行をよくしておいてよかった。