拾われサンタ、恋をする


亜紀さんの目が覚めてから帰ろうかと思っていたけれど、よく考えたら入院の準備とか、急なことで色々忙しいところに他人の僕がいたら迷惑かもしれない。


先に帰ることを告げたら、教授にもう一度お礼を言われた。


「南、すまなかった、今回のことは本当に……」


「やめてくださいよ、そんな。部外者のくせに出しゃばって申し訳ないくらいです」


「そんなわけあるか!落ち着いたら改めてお礼をさせてもらうからな」


いいって言ってるのに、この頑固親父は。


何を言っても無駄なので、「わかりました」と返事をしたら納得してくれたようだった。


「よしひろ君、バイバイ?」


「うん。バイバイ。優衣ちゃん、きびだんご食べて頑張ってね」


優衣ちゃんがおずおずと両手を出したので、僕は腰をかがめてハイタッチをした。


どうやら正解だったみたいだ、優衣ちゃんの笑顔を見ればそれが分かる。


「これ、亜紀さんの部屋の鍵です。戸締りはしておきましたので安心してください」


「あの状況で、そこまで気付いてくれたのか」


「そこは優衣ちゃんのおかげですから。それじゃ、奥さんにもよろしくお伝えください。何かお手伝いできることがあれば連絡してくださいね」


「わかった、ありがとう」


引き戸の病室のドアがはねないように、ゆっくりと閉めてその場を後にした。







「お父さん、入院手続きしてきましたよ」


南が帰ってしばらくした頃、事務所の手続きを済ませた妻が戻ってきた。


「さっきの学生さんは?」


「気を遣って先に帰ったみたいだ。亜紀とは偶然知り合いだったんだと。さっき説明してくれたよ」


「そう。何もお礼を言えてないわ……あら、優衣?何を食べてるの?」


「きびだんご」


優衣が桃太郎の歌を振り付で歌い始める。


最初こそ、おいおい病院で!と思ったが、思いのほか可愛かったので、個室だからいいかと言い訳して諦めた須藤だった。


「ほおー、上手じゃないか」


「優衣がももたろ」


「振りは完全に吉備団子を受け取っていたように思ったんだが……」


「よしひろ君がももたろって言ってくれたもん」


「よしひろ君?」


須藤はすかさず、さっきの学生のことだよと妻に注釈を入れる。



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