拾われサンタ、恋をする
「よしひろ君やさしいよ。優衣にありがとって言ってくれた。いっぱい」
「嬉しそうねえ、優衣。ばあばもお話したかったわ」
「んふー」
「義大君ねえ……」
須藤は教え子が去って行ったドアを見つめながらポツリと溢した。
須藤が南義大の担当になってからもうすぐ三年になる。
一度担当につくと研究室でべったり一緒になるわけで、彼の長所も短所もよく分かっているつもりだ。
真面目なのは言うまでもないが、南は人一倍大人しそうに見えて、実は一番肝が据わっている男だと思っている。
南から電話をもらった時、信じられないという気持ちから、驚くほどすんなりコイツが言うなら間違いないと頭が切り替わった。
年が半分以下の男に「落ち着いてください」なんて言われようとは。
「入院準備の物品一覧をもらってきたから、急いで用意しないと。私は一旦帰って着替えなんかを持ってくるわね。一時間ほどで戻るから、優衣を見ていられる?」
「おう。まだ亜紀は眠ってるし、今のうちにメシでも食っておくか」
こういう時、妻一人で動いた方が速やかに事が運ぶことくらい心得ている。
長年研究バカの自分は、こっち方面に頭を使うことがどうも苦手なのだ。
邪魔にならないようにするのがせいぜいである。
「サイドボードに冷蔵庫があるって言ってたわよ。これね」
ワンドアの小さな冷蔵庫を開けた妻が何かを見つけて取り出した。
「白桃のゼリー……?どうしたのこれ」
「南からだ。亜紀と優衣にお土産なんだそうだ。今日も吉備団子とそれを渡しにきてくれたんだと」
「そうだったの。亜紀は桃が大好物だからきっと喜ぶわね。ゼリーだったら食欲がなくても食べやすいんじゃないかしら」
「……そうか、ちょうどよかったじゃないか」
元気を出すなら豚カツ、から揚げだろうと頭が動いた自分。
「今日の俺は教え子に完敗だな」
須藤は一人、苦笑いを浮かべるしかなかった。