拾われサンタ、恋をする
すると、いつからその場にいたのか、隣のドアから顔だけを出した状態の女性に話しかけられた。
「あの……お隣の方は先日引っ越されましたよ」
「……え?」
「若い女性ですよね。先週引っ越し業者が来て作業されてたみたいなので、たぶん」
「………そう、ですか」
どっと脱力感が襲ってきて、ヨロヨロ手摺にもたれてみたら、体も口も動かなくなった。
ああ、これが恋の終わりか。
お互いが好きかどうかなんて、曖昧で考えようともせず。
空気が悪いまま、半ば意地になって繋いできたような関係だったけれど。
別れの言葉もなく姿を消した紗理奈。
彼女は頭の片隅にでも、僕のことを覚えていてくれただろうか。
「ちょっと聞いてもいいですか」
ノロノロ顔を上げてみると、声の主は紗理奈の不在を伝えてくれた人だった。
「それ、その包み。ぬいぐるみですよね」
「ああ……これですか?」
紗理奈の最後のワガママの塊を、がさがさと前に持ってきて確認する。
「クマのぬいぐるみですよ。もう、要らなくなってしまいましたけどね」
ははっと渇いた笑い見せた僕に、申し訳なさそうな表情を浮かべて女性が言う。
「不躾にすみません。それ、私がいただくことできないでしょうか。正確には娘に」