拾われサンタ、恋をする


十五分ほど滞在しただろうか。


せっかくよく眠っているのだから、このまま寝かせてあげたい。


僕は買ってきた本をサイドボードの上に置いた。


伝言をとも思ったけれど、これ以上隣でごそごそするよりは、落ち着いてからメールでもさせてもらった方がいいだろう。


僕は入って来た時と同様、静かにその部屋を出た。






「前もってアポを取ってから来るべきだったなあ」


今更後悔したって仕方がないことを独り呟いて、病院を背に歩き出した時だ。


ポケットに入れていた携帯が着信を伝えた。


液晶に映し出された名前は――――“寺嶋 亜紀”


「……え」


立ち止まり、しばらく画面を見つめてから通話ボタンを押した。


「……もしもし?」


『南くん!ああ、よかった!気付いてくれて』


「大丈夫ですか」


『はい、もうすっかり落ち着いてます!あの……四階見てください、四階!ここ!』


「は?…………………って、ちょっと!」


反射で振り返って指定された階を見上げると、起きてはいけない人が、開けてはならない窓を開けて手を振っているではないか!


僕の肩にかけていたカバンがズサっと腕まで落ちた。


「亜紀さん!何やってんですか!ちょっ、まっ………駄目ですよ!そっから叫ばなくても電話繋がってますからちゃんと!」


『あ、そうでした』


遠目でもわかるくらいの笑顔に軽く眩暈を覚える。


くらっときたからじゃない。


……行動が全くもって理解ができなかったからだ。


『気付かなくてごめんなさい。もし時間が大丈夫ならお話したいことがあるんです。そこで待っ』


「分かりました!僕がそこに行きますから大人しく横になっていてもらえませんか、というかお願いだから寝てて!」


『……はい、ごめんなさい』


まだ窓際に立ったままの亜紀さんに、電話を切るよとジェスチャーで伝えてから僕は駆け出した。


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