拾われサンタ、恋をする
と言っても院内を走るわけにはいかないので、あくまで早歩きでしかなかったけれど。
退去したばかりの病室の前で、二回息を整えてから今度は勢いよくドアを開けた。
そして見えた光景に、僕はもう一度面食らった。
「亜紀さん!」
「南くん……!これ、どうしよう!」
「………」
さっき寝てろって言ったでしょ。
どうして救急車で運び込まれるような病人のあなたが、立ち歩いて点滴の管振り回してるんですか。
「抜けちゃって」
「……抜いちゃっての間違いですよね」
「ぬ、抜いちゃって」
足元の床は薬液でビシャビシャになっている。
一体どうやったらこんな惨状を作ることができるんだろう……
僕は自分の荷物を椅子の上に置いて、チューブの間にある点滴の速度を調節する部分を閉めた。
「ありがとうございます。……なんか怒ってますか」
「呆れてますね」
「すぐに拭きますから」
「駄目ですよ!拭いちゃったらどのくらい薬が入らなかったか分からなくなるでしょう!もういいから、すぐにベッドに上がって寝て」
「………………はい」
亜紀さんは見てわかるくらいにしょんぼりした様子で、すごすごとベッドに上がった。
僕は床にぶちまけた薬液をできるだけ踏まないように気を付けながら、ベッドの上に転がるナースコールを押す。
『寺嶋さん、どうされました?』
「すみません、点滴が抜けてこぼれてしまったので来ていただけますか」
『あらら。すぐ行きますね』
言葉通りすぐに来てくれたナースが入らなかった輸液の量などを控えて、担当医に相談してくれることになった。
亜紀さんの腕に入れ直した針は、今度はテーピングでかっちり固定される。
そのくらいの処置が必要な患者だよなと、素人の僕でも思った。
部屋にまた二人になった時、失敗を恥じて赤くなっている亜紀さんが布団で顔の半分を隠した。
「呼び戻しといて隠れる必要ありますかね」
「南くんのメガネが怒ってるからです」
「は?」
言われて初めて、僕は自分の眉間に皺が寄っていることに気付いた。