拾われサンタ、恋をする
「これは心配してですね」
「嘘です。初めて見る顔だもん」
「………」
確かに。
自分でもこんな顔したの久しぶりすぎて、戻し方が分からないんですよ。
僕の顔を盗み見ては怯えて隠れる亜紀さんを見て、僕の我慢はついに臨界点を突破した。
「…………っはは!」
病人の前で失礼とは知りながら、そんなことを言っていられない面白さだ。
「あの……」
「すみません、もう我慢できないや。亜紀さん倒れてた時、意外と落ち着いて対処できたんですけど、たった今の十分間の方が焦ってたかもしれない」
感情の起伏が小さい僕が、久々に経験する急降下。
亜紀さんはある意味すごい人だと、そこまで言っては拗ねてしまうだろうか。
顔を横に向けて笑い続けていたら、左手にふと何か触れた感触があった。
それを確かめようとした僕の目は、次は驚きで丸くなる。
「………?」
亜紀さんが何度も角度を変えたりしながら、僕の手を触っていたのだ。
こちらが身体中強ばるのもお構い無しに、全く臆面なく。
前から握ってみたり、手の甲を合わせてみたり。
僕の掌に自分の手の甲がぽすっと収まった所で、亜紀さんの顔が閃いたような表情に変わる。
「あ……これだ」
そう言ってふんわり笑顔を浮かべた。
「……どういうことですか」
「あの時も、こうして握っていてくれましたよね」
「………」
亜紀さんを救急で運んだ時のことを言っているのはすぐに分かった。
確かに握ってはいたけど、その行為だけピックアップして思い出されると恥ずかしい。
肯定できずに黙っていたら「ちゃんと分かってるからいいです」と嬉しそうに言うのだ。
「苦しくて喋ることもできなくて、どうしたらいいのか分からなかった。もう、なるようになるしかないのかなって……覚悟したんです。自分が招いたことでもあったから。だけど……」
「……だけど?」
目を伏せて言葉を詰まらせた亜紀さんに、僕はその先を促した。
「優衣を置いて行くのだけは……どうしても覚悟できなかったんです」
「………」
心の中で『誰か助けて』と繰り返すことしかできなかった、亜紀さんはそう苦しそうに語った。