拾われサンタ、恋をする
あの時の優衣ちゃんの泣き声を思い出すと、僕は胸が苦しくなる。
泣いている子供を目の前にして、抱きしめる力を失った時、一体どれほどの悲しみが襲ってくるだろうか。
朦朧としながらも意識を失っていなかった亜紀さん。
あれはもう親としての根性だったんじゃないだろうか。
「来てくれたのが南くんだって、実はすぐには分からなかったんですよ」
「……無理もないですよ」
「でも、メガネで分かったって言ったら怒りますか」
亜紀さんは悪戯をした子供のように笑う。
怒りはしないけど……何だその判別法は。
「サンタさんって神様のお使いなんですよね」
「……御使い(みつかい)って言いましょうか」
「ああ、そっか」
クスクス笑ってる亜紀さんは、人のことを「おつかい」対象にしたことは反省はないようだ。
年下扱いされているのかという深読みをしてしまい、ほんの少し拗ねてしまった僕の心は、目を逸らせるという形で表に出てしまった。
逸らした先で、いまだ繋がったままの手が視界に入り、動揺する。
だって形的に………僕が亜紀さんの手を包んでいるのだ。
自分から離すわけにもいかず、どうしようかと考えあぐねていたら、くるんと返った亜紀さんの小さな手がきゅっと僕の指を絡めていった。
「………な」
「ありがとうございました、助けてくれて。いくら感謝しても足りないです」
「大袈裟ですよ」
「ううん、言葉にできないくらいです。……ありがとうございます」
祈るように閉じられた目の端に、光るものが見えた。
思えば、この人には会うたびに「ありがとう」という言葉をもらっている気がする。
特別なことをしてあげたという思いは全くない。
目の前で起きたことを、人として当然と思える選択で対処してきただけ。
ただ………それだけなのに。
こんなにも思いのこもった感謝をもらうのは、生まれて初めてかもしれない。