拾われサンタ、恋をする
身近でない関係だからこそ、甘えやすい時もあるのかもしれない。
それに、亜紀さんが僕のことをサンタサンタと言うのは、この人自身がそんな存在を求めているんじゃないだろうかとも思うのだ。
だったら――――
「ゆっくり休んで、心も体も元気になりましょう。他のことはいくらでも挽回できます」
「……でも、早く仕事に戻らないと」
「焦ってもいいことはないですよ」
命懸けで意地を張る亜紀さんを、神様サイドで諭してやる。
これってある意味、職権乱用?
いやいや違う、僕を勝手に神のおつかいにしたのはこの人だ。
「元気になったら、まず優衣ちゃんを安心させてあげてください。須藤教授も心配してましたよ」
「父が何か言ってました?」
「うーん。これは言ったら怒りそうだから言いたくないなあ」
嫌味たっぷりに口の端を上げてニヤリ笑って言うと、案の定亜紀さんは食いついてきた。
「何て言ったんですか?教えてください!」
涙目のまま凄んでいる彼女が可笑しかったが、ここはぐっと堪えた。
そして遠くを見るように点滴の袋を見上げて言う。
「元気になったらまた、おかしなことをしでかすんじゃないかって。動けるようになった途端これですから。亜紀さんの親は大変ですねぇ」
「………っ」
どうだ、言い返せまい。
合わせる顔がないとでもいうように布団に潜って行く亜紀さんを見て、ついにクスクス笑ってしまう。
頭に置いたままだった手でくしゃくしゃと彼女の髪を撫でた。
完全に何も考えていなかった。
この人が年上であることなんて立場的に忘れていたというか………後に、この時のことを思い返して一人赤面することになるのだけれど。
「そういえば、どうして僕がここに来たこと分かったんですか?眠っている間に出て行ったのに」
ふと疑問に思ったことを訊ねてみれば、亜紀さんの手が無言のままサイドボードの上を指さした。
僕が置いて行った本がある。