拾われサンタ、恋をする
「………これで分かります?」
本だぞ、本。
書店で普通に買ってきたもので、もちろん僕の名前が書いてあるわけでもなければ、書置きもしなかったのに。
「タイトルを見た瞬間に南くんだって分かりましたよ」
「タイトル……『肺炎の予防と疫学』と『在宅リハビリテーション』ですか?タイムリーだし為になるだろうと思ったんですけど。暇つぶしに最適かと」
「………」
「亜紀さん?」
亜紀さんが潜っている布団が震えはじめた。
また具合が悪くなったのかと思い、僕は躊躇なく布団をめくったのだけれど……現れたのは声が出ないほど笑っている彼女の姿だった。
「わ、私には暇つぶしより睡眠剤の効果があるかもしれないです」
「好みじゃなかったですか……?」
僕の本のチョイスを笑っているんだなということは理解できても、何がそんなに面白いのだろう。
「母だったら育児書か推理小説を持ってきそうだし、父は私の入院にかこつけて優衣の絵本を買ってきそうでしょう?友達はファッション雑誌は有り得るかなってとこなんですけど、この分野はもう私の周りには南くんしか考えられないです」
「なるほど……」
僕が認めたら亜紀さんはまた大袈裟に笑う。
さっきまで泣いていたのに、次は大笑いか。
たった数分の間に、僕の一年分くらいの感情の上げ下げを見せる人だな。
好みに合わないのだったら本を引き上げようと思って持ち上げたのだが、二冊ともすぐに亜紀さんの手に奪われてしまった。
「ちゃんと読むので、持って帰らないで」
「そうは言っても申し訳ないし。そうだ、亜紀さんが欲しい本に替えてきますよ」
「いいんです、それで」
「だけど……」
「心配して選んできてくれた気持ちは本当に嬉しかったですから」
そう言ってニコリと、僕が見慣れている笑顔を見せてくれた。