拾われサンタ、恋をする
この笑い方はさっきと違う。
そんな細かいことに気付いてしまう僕は根っからの研究者体質なんだろうか。
「……その表情って、どんな気持ちからだと思ったらいいですか」
「……はい?私のですか?」
「亜紀さんは、よくそうやって笑ってますよね。面白いことがなくても、たぶんしんどい時でも」
僕は頑張っても笑顔を作れない人間だけど、亜紀さんはそうではないことを知っている。
亜紀さんは小さく首を傾げた後、眉を下げて答えた。
「そうなのかな……ごめんなさい、無意識なので自分ではよく……」
困惑した顔を見た瞬間、余計なことを聞いてごめんなさいと言いたくなってしまう。
「違うんですよ!責めているわけじゃなくてですね!なんていうか、その……」
言葉を探しつつガシガシ頭を掻いてちらっと亜紀さんと見てみると、彼女の答えが欲しそうな目に焦って、さらに頭を掻き毟るはめになった。
「僕が迷った時に、亜紀さんがそういう顔をしてることが何度かあったんです」
「えっと……」
思い出そうとする彼女に、なんだか気恥ずかしくてそれは必要ないと制止する。
「僕はいつも安心させてもらってます。笑ってるんだから、きっとこれでいいんだって。でも、亜紀さんはつらくないのかなと思ってしまったというか……」
僕が深読みのしすぎですね、そう言って謝罪とともに話を畳もうとした。
すると亜紀さんは、僕が言った通りの笑顔を見せた。
「南くんが言ってるのは、こういう時のこの顔ですよね」
「……ですね」
「今のことだけなら自分の気持ちが分かるので言ってみますね。たぶん……“気にしないで”とか。“大丈夫だよ”とか思ってます。“ありがとう”もかな。だから安心すると言ってもらえるなら本望です」
そう言って、本当に病人かと思ってしまうほどニッコリと微笑むのだ。
「はは……」
僕はこんな乾いた笑いしか表現できないっていうのに。