拾われサンタ、恋をする


僕はこの時初めて、亜紀さんの旦那さんはどんな人だったんだろうと思いを馳せた。


まだ赤ん坊だった優衣ちゃんを抱くことはできたんだろうか。


……どんな思いで、二人を置いて旅立っていったんだろう。


「先生、今日何時にお迎えに行きます?」


「六時には行くことになってるから、そうだな……五時半にはここを出るか」


「僕も一緒に行っていいですかね」


「おおーいいぞ。優衣が会いたがっていたから丁度よかった。ついでに飯でも食って行けよ」


え、いやそれは……そこまでお邪魔するつもりじゃなかったんだけど。


その件に関しては断りを入れようとしたが、教授が自宅の奥さんに連絡を入れる方が早かった。


「……とに強引ですよね」


「いいじゃないか。お前も一人なんだし、たまにはいいもん食え。実は家内がな、南に会って礼を言いたいと言ってたんだ」


須藤家の女性陣は本当に律義な人たちだ。


「じゃあ突然で申し訳ないですけど、お邪魔させてもらいます」


「おう、時計見ておいてくれ。迎えに遅れたら優衣に嫌われる」


言いながらタカタカとパソコンを打ち始めた教授を見て、僕は小さく嘆息した。


実験に集中し始めると時計を気にしなくなるのは、僕も同じなのに。


仕方がないので、自分の携帯のアラームをセットしておいた。







冬場は夕方の五時をすぎると夜のように暗い。


教授の車で優衣ちゃんの保育園に向かいながら、こんな暗さの中でまだ保育園で過ごしているんだなと、当たり前のことに思い至る。


時間が分からない子供にとって、日が落ちてからの外の景色はどれほど不気味だろう。


今この時も、優衣ちゃんは窓の外の景色を見て何を思っているのか……


「……先生、もう少し急いでもらわないと」


「渋滞だよ渋滞!見て分からんのか!急ぎようがないだろう!」


「あと五分で六時に到達しますよ」


「知ってるからイライラしてんのに言うな!それにしても、なんだこの渋滞。ピクリとも動いてないぞ」





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