拾われサンタ、恋をする
僕はこの時初めて、亜紀さんの旦那さんはどんな人だったんだろうと思いを馳せた。
まだ赤ん坊だった優衣ちゃんを抱くことはできたんだろうか。
……どんな思いで、二人を置いて旅立っていったんだろう。
「先生、今日何時にお迎えに行きます?」
「六時には行くことになってるから、そうだな……五時半にはここを出るか」
「僕も一緒に行っていいですかね」
「おおーいいぞ。優衣が会いたがっていたから丁度よかった。ついでに飯でも食って行けよ」
え、いやそれは……そこまでお邪魔するつもりじゃなかったんだけど。
その件に関しては断りを入れようとしたが、教授が自宅の奥さんに連絡を入れる方が早かった。
「……とに強引ですよね」
「いいじゃないか。お前も一人なんだし、たまにはいいもん食え。実は家内がな、南に会って礼を言いたいと言ってたんだ」
須藤家の女性陣は本当に律義な人たちだ。
「じゃあ突然で申し訳ないですけど、お邪魔させてもらいます」
「おう、時計見ておいてくれ。迎えに遅れたら優衣に嫌われる」
言いながらタカタカとパソコンを打ち始めた教授を見て、僕は小さく嘆息した。
実験に集中し始めると時計を気にしなくなるのは、僕も同じなのに。
仕方がないので、自分の携帯のアラームをセットしておいた。
*
冬場は夕方の五時をすぎると夜のように暗い。
教授の車で優衣ちゃんの保育園に向かいながら、こんな暗さの中でまだ保育園で過ごしているんだなと、当たり前のことに思い至る。
時間が分からない子供にとって、日が落ちてからの外の景色はどれほど不気味だろう。
今この時も、優衣ちゃんは窓の外の景色を見て何を思っているのか……
「……先生、もう少し急いでもらわないと」
「渋滞だよ渋滞!見て分からんのか!急ぎようがないだろう!」
「あと五分で六時に到達しますよ」
「知ってるからイライラしてんのに言うな!それにしても、なんだこの渋滞。ピクリとも動いてないぞ」