拾われサンタ、恋をする
車内に備え付けてある時計が時間を知らせてくる。
教授が鞄のなかを雑にまさぐって、携帯電話を取り出した。
「優衣の保育園の番号を登録してあるから、探して掛けてくれ。遅れることを言っておかないと心配される」
「……これは何ですか?」
僕は、教授の電話に絡まってあった吊り下げ名札のようなものをかざして訊いた。
「ああ、それは園に入る時に見せる身分証みたいなもんだ。子供と母親の写真入りになってるだろう。物騒な事件も多いからな。子供の引き渡しの際は特に注意をしているらしいぞ」
なるほど……と感心してから閃いた。
「これを下げていけば引き渡しに問題ないんですね」
「まあな。事前に園に誰が迎えにいくかを言っておけば……っておい」
それを首から下げて上着のジッパーを引き上げた僕を、教授が驚いて見てくる。
「南?」
「園に連絡入れておいてください。僕は先に優衣ちゃんの所に行きます」
「おい待て!お前まさか走って行くつもりか?」
「だってこの渋滞は普通の帰宅ラッシュじゃない。たぶん事故の処理か何かでしょ。いつ動くかも分からないのに、優衣ちゃん待たせていたら可哀相じゃないですか」
目視で後続車とバイクを確認してから、シートベルトを外した。
「必ず連絡しておいてくださいよ!」
「ばか!それなら俺と運転を代われ!」
親父の反論には聞こえないふりをして、できるだけすばやく教授の車を降りた。
保育園の場所はカーナビの地図を見ていたから覚えている。
延々と並ぶ車のライトに照らされた歩道を、前だけ見て走った。
あと一キロほどの距離なのに、車というのはこうなるとお荷物でしかない。
途中で腕時計が六時を回ったのを見て、ラストスパートをかけるランナーの如くスピードを上げる。
角を二つ曲がったところに電気も何もない園庭と冷えた遊具が見えて、何とも言えない気持ちにさせる。
門の横にあるインターホンを押すと、すぐに保育士の肩が出てきてくれた。
「寺嶋優衣ちゃんのお迎えに来ました、南といいます」
「ああ、先ほどご連絡をいただいた……」
よかった、教授はちゃんとすぐに連絡を入れてくれたようだ。