拾われサンタ、恋をする
「違うって、優衣ちゃんパパいないじゃん」
「だって抱っこされてるよ?」
ああ、そうなるか。
かといって今あからさまに優衣ちゃんを下ろすのも違うような……と僕が考えあぐねていたら、先生が子供たちをまとめて中に戻そうとしてくれた。
「優衣ちゃんのお迎えにきてくださった方です。失礼のないようにね。みんなはお部屋に戻りましょう」
「えー優衣ちゃんだけずるいなあ」
子供達はぶーたれて渋々部屋へと帰って行く。
その際に彼らが発していく一言一言でさえ、優衣ちゃんが緊張しているのが分かった。
目を逸らしたままぎゅっと僕の服を握るその手から。
「バイバイ、優衣ちゃんと嘘のお父さん」
「こら!」
ふざけて言った男の子は、怒られながら保育士と一緒に部屋の中へと消えていく。
僕が出る幕はないとはいえ、子供の言葉の残酷さに腹が立った。
「ふ……うええ……っ」
みんながいなくなるまで我慢していた優衣ちゃんの目から、堪えきれなくなった涙が溢れる。
その声が、震えが直接伝わってきて、なんだかもう――――僕もたまらない気持ちになってしまった。
お父さんがこの世にいないという現実。
この小さな体で受け止めるのは、どれほど大変だろう。
「うあああん!あーーんっ」
「優衣ちゃん……」
かわいそうに。
僕がでしゃばったばかりに、優衣ちゃんにつらい思いをさせてしまった。
先生もやり取りを聞いていたのなら、こっちにフォローしてあげてよ。
ぎゅっと抱きしめて宥めながら、この子の父親であったはずの男性のことを思う。
こんな思いをさせたくなかったはずだ。
子供が泣いているその時に、こうして抱き上げて慰めたかったろうに。
………なんて運命だ、全部が酷すぎるよ。
「優衣ちゃん、嫌な思いさせてごめんね。帰ったらいっぱい一緒に遊ぼう」
「優衣にイジワル言ったぁ!」
「うん……意地悪する子は先生が叱ってくれるってさ」
心ない言葉にこれ以上悲しい顔をしないで。
そう願う一心で、僕は必死に言葉を探した。