拾われサンタ、恋をする
「………また、連絡します」
「はい」
短く返事をした亜紀さんは、今日一番嬉しそうだった気がした。
ドアを閉めても、しばらくそこに立ったままでいた。
誰かに引き留めてもらうのを期待しているとかではない。
カチャっという施錠の音を拾い、ようやく安堵して僕は明るくなったばかりの外へと足を向ける。
確か初めて会った時も同じことをしたよなと、ふとクリスマスを思い出した。
あの夜、身も心も凍りそうだった所をあたたかい部屋に招き入れてくれて、僕の取り留めのない話を真剣に聞いてくれた亜紀さん。
言葉が優しい人だというのは、すぐに分かった。
そして同時に、とても儚げで頼りない印象を受けた。
もう二度と会わない人ならよかったが、こうも繋がりを深くしてしまうと、彼女のことが気になって仕方がない。
………とても一人にさせられない。
「はあ……」
ため息と一緒に現れた白い息が、朝の空へ吸い込まれていく。
自分はこれから、どういう形で亜紀さんと優衣ちゃんに関わって行くことになるのだろう。
お世話になっている教授の娘さんというだけで、特別な関係は何もない。
けれどむしろ前向きに、あの母娘に会える機会を持ちたいと考えている自分もいる。
今となっては、二度と会わない人かもしれないとは考えられなくなっている。
「何がしたいんだ僕は……」
写真で見た優衣ちゃんの父親の人の良さそうな笑顔に、無性に会いたいと思った。
会って、話を聞いてもらえたらよかった。
現実にそんなことになったら、絶対ややこしい話になるのは分かっちゃいるけど。
だけど分かり合えるのは、あの人しかいないんじゃないだろうか。
あの亜紀さんを置いて行くのはとても怖かっただろうって――――僕はたぶん同じ気持ちを知っている気がするから。