救済のキス
Kiss
「はぁ。これ、あと何個くらいだろ……」

随分前に陽は暮れてる。
いくらなんでも、いつもだったらとっくに家に着いてる時間だ。

両手を止めて、平台に積んである箱と、足元にあるダンボールに目を向ける。

そうしてもう一度出た溜め息は、自分でもわかるくらいに相当深いもの。

「雇われ店長なんて、損な立ち位置だよ」

そんなことを日々いつも思ってるわけじゃない。
でも、〝こんなとき〟は、ついそう思わざるを得ない。

中型ショッピングモールの雑貨屋の店長をして、二年。その前から働いてはいたから、社歴的にはもうすぐ二ケタになるところだ。

雑貨店ということだけあって、部下は女性ばかり。
それは別に何の問題もない。それに、いい子ばかりで和気藹々と仕事してる。

ただ、やっぱり店長と名の付く私には、当然それ相応の責任はあるわけで。
まさに今は、その〝責任〟を全うしている最中……だと、思う。

しん、とした売り場の中で、ぽつんとひとりきりでいる私。

周りのテナントのスタッフも当然いなくて、営業中は賑わっている音がする場所だからこそ、そのギャップで今はとても淋しい。

大口の注文の納期が明日に迫っていた。
百個単位の注文は、売上的にはとってもありがたい。だけど、その分、ミスがあったりすると打撃が大きい。

今回のように――。

「責めれば解決するわけじゃない。まずは目の前のことをクリアする!」

自分に言い聞かせるように、敢えて声に出してみた。

「まーたなんかやってんの?」
「えっ……!」


< 1 / 3 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop