救済のキス
そこに、誰もいるはずないと思ってたのに、応答があって驚いた。

勢いよく顔を上げると、疲れ顔なんか知らない涼しい顔で私を見下ろす彼がいた。

「あんた。たまにこんな時間までひとりでいたりするよなぁ」
「さ、栄(さかえ)さん。まだいらっしゃったんですか」

彼は、たまにふらりと顔を出す。こんなふうに、突然に。

「まぁ、ね」

パリッとしたワイシャツを纏っている姿から、紳士服とかの店員なのかな?と思いつつ、私か彼のことを詳しく知らない。

「なに? 急ぎの仕事なの? それ」

目線で山積みの商品を示され、私は俯きがちになりながらぼそぼそと答える。

「……誤算だったのは、納期があまりにギリギリで。注文を受けた担当が、完全に、個包装する時間を忘れてたって話です」

淡々と、怒りや疲れなどの感情を出さないように口にして、私はまた手を動かし始めた。

「ふーん。で、なんであんたひとりなの?」
「……たまたま不運だっただけです」

今日勤務だったのは、新人の子と、他にもうひとり。

後者はどうしても外せない予定があるっていうのを聞いて、残業をお願いすることを断念した。
新人の子は、自分が受けた注文だったから、半べそかきながら責任を感じて残ってはいた。

けれど、包装も不慣れだからどうしてもスピードは上がらなくて。

それでも、彼女は彼女なりに一生懸命やってたし。
それがわかるから、私も出来る限り笑顔で『大丈夫』って励ました。

「さすがに終電前には帰さないと。相手は若い女の子ですから」

なにかあったら大変だし。
日付超える残業をさせるのも、上に問題扱いされそうだし。


< 2 / 3 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop