やむにやまれず雨やどり
研修が終わっても何事もなく、

それどころでもなく、

システムの忙しさはとてつもない。


おかげで時間があっという間。


冷静に考えたら、よく私なんか入れてくれたよ。
みんな理系大学出てるのに。


歓迎会が、今さらのように開催された。


「有休なんて…人事はうるさく取れって言ってくるけど、夢物語だよ」

「そうそう。カタギの仕事だと思ってちゃダメ」


久しぶりの飲み会だったから、私もずいぶん飲んじゃった。
男性ばっかりだけど、前の部署に比べるとみんなハキハキしている。


「システムなんて、オタクばっかりだと思ってたでしょー?」

「そんなそんな…私だってアイドルオタですからぁ」

「うちの妹も追っかけやってる~」

「オレも好きー」

「それまんまじゃん!」


店を出て、みんなでバカ笑いしながら駅まで歌って歩いた。


メンテで回った部署で陰口を叩かれていることを知ったのは、それから数日後のことだった。


配線を渡すためにしゃがみこんだ途端、声が降ってきた。


「キッショ」

「『オタサーのヒメ』ってヤツ?」



今、なんて言われた?
キッショって?オタサー?…なんて?


一緒にきた先輩も顔を強ばらせている。

「…そっち、線わたして」

「はい」

和やかだった雰囲気が一瞬で張りつめた。



「今、なんて言った?」



でっかい声が聞こえた。
しゃがんでるから、足元しか見えない。
でも分かる。


「システムが気色悪いなら、二度と端末なんか触るな。それで仕事できるもんなら、やってみろ」


それでも声を抑えているのが分かった。

言われた相手の返事は聞こえないけど、動揺したような脚の震えが見えた。


「こっち持ってくれる?」

「はい」

静かに作業は続いた。


作業が終わると課長が近寄ってきた。

「すまん…なんて言ってるんだか分からなくて」

「『オタサーのヒメ』ですよ。オタクのサークルにいる女性をそう呼ぶんです」

先輩が答えた。


「良い意味じゃないんだね?」

「時と場合によりますねー。詳しくはネットをご覧ください」


マズイなって顔をしてる女がいる。
アイツ…知ってる!!


「自分はミューザーのくせに!アツヒロの側室って自分のこと言ってたくせに!」


みんな、私を見た。

シマッタ……声がでかかった。

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