やむにやまれず雨やどり
プリプリしながら、もうクールダウンした先輩とエレベーターに乗り込んだ。


「ミューザーってなに?」

「ミューザックトリニティのファンのことです」

「自分のこと『側室』なんて言ってたの?」

「言ってましたよ。そっちのほうがキショいっすわ」

「『側室』の認識に誤りがあるね。側室はキホン子作りのためにいるんだから、そういう関係がなければ、村の娘AかBでしょ」

「あの人だって立派なオタクですよ!新人研修の途中で休んだんですよ!?アツヒロのために!」

「ええ~エヘヘヘ。それは重症だなー」


おかしくなってきた。
オタクは本当にしょうがない。
自覚症状がないんだもの。


笑っていると、エレベーターが開き、バラバラと乗り込んできた人たちの中に、笹原さんもいた。


「あ…先ほどは、あの、ありがとうございました」

「いや」

「笹原くんだったんだ。久しぶり」

「久しぶり」



同期かな?
顔見知り程度らしく、それで話はとぎれた。


先輩が話を再開した。

「じゃあ清水さんが休んだら、とりあえずヤハタくんの動向を検索だ」


これには笑った!



「『あ、今日は福岡かぁ』……」

「ヤ、ヤメテ……笑わせないでください……」

「『清水さーん、福岡の病院に行ってるの?』」



オモシロすぎる!




1階に着いた。

ああ、おなかイタイ。


グイっと腕が後ろに引っ張られた。
笹原さんだ。


「な…」

「もう昼だよな?コイツ、借りてっていい?」


先輩が不思議そうに、笹原さんを見た。

「あれ、知り合い?」
「カノジョ」

「ええ!?」
「うそっ」

荷物を放り出しそうになった。


「ワタシのカレは、ヤハタだけですが!」

「アイタタタタ~」


先輩が憐れみの目で見た。


「行ってきな……そんなセリフが速攻で出るようじゃ心配だよ」
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