やむにやまれず雨やどり
トレイを返却口に突っ込み、足早に表へ出た。



振り返ったら…

お、追いかけてきてるっっ!



「清水さん、清水さん!」

「ナナナナンデショウカ?」


足が止まらない。

でも笹原さんはヨユーでついてくる。




「話したい」



それは…ありがたいやら、そうでないやら…



「嫌われてるのは分かってるけど、話さないことにはどうにもならない」

「き、きらってません」

「ホントに?」

「ウソです……ごめんなさい」

「話すのがイチバンなんだって」


別館に続く、渡り廊下の手前まで来た。

ここからセキュリティが掛かるから、本館の人は入って来れない。




も、もう少しだ!


グッとカラダが浮いた。


な、なんで!?




「ひゃっ!」




まだお昼で、こんなところに誰もいない。


かつぎ上げられてる!!


一番近くのミーティングルームへ連れ込まれた。

マネキンのように、足から床に下ろされる。

言葉もなく、笹原さんを見上げた。



「こういうことも出来る…だけど、こんなことしたいわけじゃない」


近い……


「話したい。もっと色んなこと知りたいし、俺のことも知ってほしい」



肩をつかむ、大きな手。

この間も思った。


暖かいって。




「なんで……声が小さくて、小柄ってだけで、他のオトコとは飲みに行くのか分かんねぇ……なんで?」



真っ直ぐな目で聞いてくる。

ごまかせない。



「……飲み会っていうか、歓迎会ですよ」

「歓迎会?」

私はうなずいた。



笹原さんが息をついた。

「ほら、話したら一つ分かった」



一応、納得するほかない。


「じゃあ、俺とも行けるよな?」



ソ、ソレとコレとは……



「ハイは?」

「ハイッ」



なんで、ハイなんて言っちゃうの???

な、なん、な……??



「俺は、自分だけが知ってる秘密があると思ってたのに、あっさり知ってるヤツがいるのは、ショックだった」



こうやって、落ち着いて話してる分には……怖くない。

怖くないはずなのに、後ずさりしてしまう。



笹原さんが、そっと言った。


「逃げるなよ」

「ごめんなさい……」

「逃げると追いかけたくなるんだよ」



もっと、ちゃんと逃げなよ。

なのにカラダ動かない。



「キスさせて」



これだ。


怖いのは、自分の反応なんだ。

ぜんぜん動こうとしない。

アタマとカラダが、バラバラ…




唇が重なった。

ずっと求めていた感触に、ため息がもれる。



「嫌いなオトコにキスさせて、いいのか?」



それは、キライとは言わない。

本当にキラってたら、家になんか入れるはずない。


私は、『自分』がキライだったんだ。
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