やむにやまれず雨やどり
「アイキングダムのヤハタくん…」
言ってしまった。
おそるおそる顔を上げる。
こんな至近距離で見るの初めてだ。
カッコいいとは思うよ。
左右対称で、パーツの配置がいい。
しかし、軽々しく「素敵!」で済ませるにはあまりにも荒々しく、
「イケメンですね!」と褒めるには、あまりにも男くさい。
こういう人は、今まで会ったことがない。
異次元のオトコ。
あ、あれ?
笹原さんが眉を寄せている。
はっ……飲み込めてない!?
「も、もしかして、知らないんですか?」
「いや、もう少しで思いだせそう……うちの会社でいうと誰に似てる?」
いるわけないじゃない!!
アイドルなめんなよっっ!?
言えなーい…!
こわーい!
全国のファンごめんなさーい!
「……思いあたらないです」
「どんなだっけ?」
「か、かわいい…けど、ライブはカッコいい……みたいな」
「え?ライブも行ってんの?」
し、しまったぁ!
「と、ときおり。ワタシ、大きい音が苦手で…」
ときおりな、わけがない。
「ファンクラブ入ってる?」
「スミマセン……」
「いや、謝らなくても」
「この話は会社ではナイショにしてください……」
「別にナイショにしなくてもよくないか?」
「これは、病なのでもう放っておいてください……」
「どこが好きなの?」
「すべて……」
笹原さんが吹き出した。
私も笑うしかない。
外回りのひとは、こうやって信頼関係をきずいていくんだろうなぁ。
もうスッカリ、相手のペースだよ。
「たとえば?」
「優しいところとか、でも、お、オトコらしいところもあり…」
こんなことをナゼ告白しなくちゃいけないんでしょうか。
顔があっついよ。
目が上げれないよ。
自分でもジブンがイタイタしい……
だから、ヒトに言いたくないのに。
「あとは?」
「カワイイ……萌えのツボをグイグイ押してくるんです……」
「どういう風に?」
「……もう、もう、もうこれ以上はご勘弁くださいっ」
「分かんね。教えて」
「これは、もうヤハタマジックですから、ワタシにもタネは分かりませんっ……そこいらの女子よりカワイイんです」
ああ、はやくツアー始まらないかな!
「もしかして、ここにあるの全部……」
「ま、まってーっ!」
笹原さんが、テレビ台の下に手を伸ばした。
あわてて、その手を押さえる。
「ちょっと見るだけ」
「ダメダメダメダメッ!やめてーっ!」
「なんで、Blu-rayとDVDがあるんだよ」
「特典が違うんですー!」
「え、内容が違うの?」
「内容はいっしょです!特典です!」