やむにやまれず雨やどり
さんざんな夜が過ぎた……

別に何にもないけど、男性と一夜を過ごして……いやあ!それはもう言わないで!


別のこと、考えよ。


電気が復旧してヨカッタ。

今日が土曜日なのもヨカッタ。

こんなメンタルで、出勤なんか出来ない。



笹原さんは、朝早く起き出して、帰り支度を始めた。

ああ、早く帰ってもらわないと!

近所の連中に見られたら、即日ワッショイだ。



玄関を開けると、入り組んだ電線の先に青空が光っていた。



「また来ていい?」


笹原さんが振り返った。


こんな狭いところでヨロシケレバ、

………じゃないない!それはもうない!




「こんなことは、そうそう…ないと、思いますけど」

「そうじゃなくて、フツーに」



驚いて、笹原さんの顔を見上げた。



ズキッと胸が痛んだ。


やっぱりムリ。

やっぱりコワイ。



すぐに目線を下げた。


「……すみません」

「声、気をつける」

「笹原さんが悪いんじゃありません。私が小心者なんです」



ちょっと間があいた。




「本当にキライなんだ」



その声は傷ついていた。



「それなのに、泊めてくれたんだ……」




もう答えようがない。

アタマに大きな手が掛かった。


「分かった。ありがとう」



狭い家から笹原さんがいなくなると、急に広く寒々しく感じた。


几帳面に布団が畳まれている。


なぜか泣きそうになった。
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