違反のキスでよければどうぞ【完】
「好きじゃないのにキスしたなんて、ひどすぎます」
ほんとは、これが、どうしても言いたかったこと。
半端に気のあるフリをするなんて、無駄に期待させたりするなんて。
ひどい大人だと思うけど、好きになっちゃったもんはしょうがなくて、そんなことで今更嫌いにはなれなくて。
落ちるな涙。
ぎゅっと拳を握りしめて唇を噛んだけど、先生から目を逸らさないのは私のせめてもの意地だ。
「……柴崎さんその顔はずるいよ」
「……どうしてですか。ずるいのは先生の方ですよね…!」
ずるいってなんだずるいって。
先生のことを睨んでいれば、徐に彼は立ち上がりドアの方に向うから、あ、逃げる気なんだなとちょっと腹が立った。
「……こっちがどんな気持ちでいるのかも知らないでさ」
「気持ちって……?」
「だからこっちの話」
カチリ、と音がした。
ん、あれ一体なんのと考える間もなく思いつく。
先生が後手で部屋の鍵をかけたのだ。
逃げたわけではなくて。