幼馴染みの期限

憮然とした表情で言い返すと「そりゃそうか」と広海はふわりと笑った。


そしてふと真剣な表情に戻る。


「……なぁ、樹里。お前はずっと後悔してたのか?」



「何を?」



「失ったものを取り返さなくてもいいって俺が言ったこと」



思わず息を飲んだ。喉の奥でヒュッと空気の鳴る音が聞こえた。



ここで『後悔している』と言ってしまったら、私は広海の10年を奪っただけではなく、否定まですることになってしまう。


押し黙ったところをさらに畳み掛けるように広海は質問をぶつけてきた。


「今まで俺達、あの時の事は話さないようにしてきただろ?おまえにとっては、もう思い出したくもないほど辛い記憶だって思ってたから。それとも俺の思い過ごしだったのか?」



「昨日……向井と会ってたんだろ?」



向井という名前を広海の口から聞くと思わなかった。


あの日以来、暗黙の了解のように私達の間で向井くんの話題も、名前すらも口にすることはしてこなかったのに。
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