幼馴染みの期限
「ひろみ……?」
何してるの?まだ学校が終わる時間じゃないのに。
「どうしたの……って、何それ?」
片手に何か長い棒を持っている。ポール?竿?とにかく、これで窓を叩いていたみたいだ。
「これか?高枝切りばさみだよ。庭の手入れするヤツ。じーさん使ってただろ?……ってか、そんなのどうでもいいんだよ。……何だよ、お前元気そうだな。さっきチャイム鳴らしたんだぞ」
「さっきって……?」
「さっきはさっきだろ。聞こえなかったのか?里子かーさんも寝てるみたいだって言うから、起き上がる元気も無いのかと思って焦ったじゃねぇかよ。起きてるんだったら、さっさと開けろよバカが。寒いだろ」
バカって何よ。昔だったら寝てたって関係無く上がり込んで、部屋まで入って来てたくせに。
そう言いかけてから、ここ一年半くらい広海が私の部屋どころか、家にすら来ていなかった事に気がついた。
もちろん、私も昔のように気軽に広海の家に行くことは無くなっていた。
部屋に入れずに、ベランダの下からあんな物を使って窓を叩いて話かけてきた広海。
いつの間にか私達はこんなに離れてしまっていたんだ。
「樹里」
「……なに?」
誰からも着信の無い電話、広海との距離。
全て現実のはずなのに、心がそれを受け入れられない。
「明日、さ。一緒に学校に行こう」
誰も信じることができないくらい、私の心は沈んで塞ぎこんでしまっていた。
だけどそう言ってくれた広海の顔は、幼い頃からいつも側にいた優しい『幼なじみ』の顔をしていたから……
広海の事だけは信じられる。
……そう思ったんだ。